Read 現代訳聖書, Modern Japanese Bible, 1983 マタイによるイエス・キリストの福音 26 Bible Online

マタイによるイエス・キリストの福音 26 - 現代訳聖書, Modern Japanese Bible, 1983 bible

マタイによるイエス・キリストの福音 26

¹イエスは、これらのことをすべて話し終ると、弟子たちに言われた。

²「あなたがたも知っている通り、二日後には、過越の祭が行われます。わたしは、十字架に付けられるために引き渡されます。」

³そのころ、祭司長たちと民の長老たちは、大祭司カヤパの官邸に集まり、

⁴策略によってイエスを捕え、殺してしまおうと相談した。

⁵彼らは言った。「祭の間はいけない。民衆が暴動を起すといけないから。」

⁶さて、イエスがベタニヤで、重い皮膚病の人シモンの家におられた時、

⁷一人の女が、高価な香油の入っている石膏のつぼを持って来て、イエスの所に近寄り、食事のために横になっておられたイエスの頭に香油を注いだ。当時は、食事をする時には、いつも横になってしたのである。

⁸弟子たちはこれを見て、怒って言った。「どうして、こんな無駄使いをするのか。

⁹これを高く売れば、貧之な人たちに施しができたではないか。」

¹⁰イエスはこれを知って、彼らに言われた。「どうして、この婦人を責めるのですか。わたしに対して良いことをしてくれたのではありませんか。

¹¹貧之な人たちは、これからもまだまだあなたがたと一緒にいます。しかし、わたしの最後は、もうすぐ来ようとしています。

¹²この婦人が、この香油をわたしの体に注いだのは、本人としては、どれだけそのことを自覚していたかは分りませんが、確かに、わたしの葬りの用意をしてくれたのです。

¹³よく言っておきますが、確かに、これから世界中のどこででも、わたしの十字架についての福音が宣べ伝えられる所では、この婦人のした事も記念として語られ、人々に覚えられるでしょう。」

¹⁴その時、十二使徒の一人で、イスカリオテのユダという男が、祭司長たちの所へ行って、

¹⁵こう言った。「あの人をあなたがたに売り渡すとしたら、いくら下さいますか。」すると、祭司長は銀貨三十枚を彼に支払ってやった。

¹⁶その時から、ユダはイエスを引き渡すのに良い機会をねらっていた。

¹⁷イースト菌無しのパンの祭の第一日に、弟子たちはイエスの所にやって来て、言った。「過越の食事をなさるのに、私たちはどこに準備をしたらよいでしょうか。」

¹⁸イエスは言われた。「エルサレムの町のあの人の所へ行って、こう言いなさい。『先生が、「わたしの苦しみと栄光の時が近付いている。あなたの所で、弟子たちと一緒に過越の食事をする」と言っておられます。』」

¹⁹弟子たちは、イエスから命じられた通り、過越の食事の準備をした。

²⁰夕方になって、イエスは十二弟子と一緒に、食事のために席に着かれた。

²¹皆が食事をしている時、イエスは言われた。「よく言っておきますが、確かに、この中にいる者の一人が、わたしを裏切ろうとしています。」

²²弟子たちは一様に深く心を痛め、「先生。まさか私ではないでしょうね」と、それぞれに言い始めた。

²³イエスはまた繰り返して言われた。「ここで、一緒に食事をしている者の中に、わたしを裏切る者がいるのです。

²⁴わたしは、旧約聖書に記されている通りに死にます。しかし、わたしを裏切る者は災だ。生れてこなかった方がよいくらいだ。」

²⁵すると最後に、イエスを裏切ろうとしていたユダまでもが、しらじらしく言ったものだ。「先生。まさか私ではないでしょうね。」イエスは彼に答えて言われた。「今、自分で言っているでしょう。」

²⁶一同が食事をしていると、イエスはパンを取り、祝福してから、これを裂き、弟子たちに与えて言われた。「取って食べなさい。これは、わたしが十字架上で裂かれる体を表しています。」

²⁷また、杯を取り、感謝をささげてから彼らに与えて言われた。「皆、この杯から飲みなさい。

²⁸これは、わたしが十字架に掛って、あなたがたの罪を赦すために流す血を表しています。これこそ、救いの契約にほかなりません。

²⁹わたしは、これを、後一杯飲んだら、もう出掛けなければなりません。わたしの最後は近付いて来ています。」

³⁰彼らは、旧約聖書の詩篇一一五篇以下の賛美歌を歌ってから、オリーブ山に出掛けて行った。

³¹その時、イエスは彼らに言われた。「今夜、あなたがたは皆、わたしに躓きます。旧約聖書のゼカリヤの預言に、『わたしは羊飼を打つ。すると、羊の群は散り散りになる』と、記されている通りです。

³²しかし、その預言に引き続いて語られている通り、わたしは、復活してから、あなたがたよりも先に、ガリラヤへ行きます。そこで、躓いた者たちを、もう一度、立ち直らせます。」

³³すると、ペテロはイエスに答えて言った。「たとい、ほかの人が全部あなたに躓いても、私は決して躓きません。」

³⁴イエスはペテロに言われた。「よく言っておきますが、今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言います。」

³⁵ペテロはイエスに言った。「あなたは、私のことを知っているとおっしゃっていますが、私のことを一番よく知っているのはこの私です。たとい、あなたと一緒に死ななければならないことになっても、私は、決してあなたを知らないなどとは申しません。」こう言って、イエスの言葉をはねのけた。そして、ほかの弟子たちも、皆同じように言った。

³⁶それから、イエスはゲツセマネという所に、弟子たちと一緒に行かれた。そして、弟子たちに言われた。「わたしが向うへ行って祈っている間、あなたがたはここで座っていなさい。」

³⁷イエスはペテロとゼベダイの子ヤコブとヨハネの三人だけを一緒に連れて行かれたが、悲しみ、もだえ始められた。

³⁸その時、イエスは彼らに言われた。「わたしは悲しみの余り死にそうだ。ここにいて、わたしと一緒に、目を覚して祈ってほしい。」

³⁹それから、少し進んで行き、ひれ伏し祈って言われた。「天のお父様。出来ることでしたら、十字架に掛るという、この苦い杯を飲まないでも済むようにしてください。けれども、わたしが願っていることよりも、あなたの御心が成りますように。」

⁴⁰それから、イエスは弟子たちの所に戻って来て、彼らが眠っているのをご覧になると、ペテロに言われた。「あなたがたは、わずか一時も、わたしと一緒に目を覚していることができなかったのか。

⁴¹誘惑に陥らないように、目を覚して、祈っていなさい。心はどんなに燃えていても、肉体は弱いものだ。」

⁴²イエスは行き、二度目に祈って言われた。「天のお父様。もしも十字架に掛るというこの苦い杯をわたしが飲まなければならないのでしたら、あなたの御心が成りますように。」

⁴³そして、また戻って来られると、彼らが眠っているのをご覧になった。彼らは目をあけていることができなかったのである。

⁴⁴それで、彼らを残し、また行って、三度目に祈って言われた。「天のお父様。この苦い杯は、わたしが飲まなければならないものなのですから、あなたの御心が成りますように。」

⁴⁵それから、また弟子たちの所に来て、言われた。「まだ眠っているのか。まだ休んでいるのか。さあ、わたしの苦しみと栄光の時が来た。わたしは、悪者たちの手に渡されます。

⁴⁶起きなさい。さあ、行きましょう。わたしを裏切る者が近付いて来た。」

⁴⁷イエスはまだ話しておられた。するとその時、十二使徒の一人イスカリオテのユダがやって来た。また、祭司長や民の長老たちから差し向けられて来た多くの群衆が、刀や棒を持って、ユダと一緒に来た。

⁴⁸ユダは、「私が口付けするのがその人だ。その人を捕まえるのだ」と言って、あらかじめ合図を決めておいた。

⁴⁹彼は、すぐイエスに近付いて来て、「先生。お元気ですか」と言って口付けした。

⁵⁰イエスは彼に、「君。口付けをするために来たわけではないだろう」と言われた。その時、彼らはイエスに近付き、手を掛けて捕えた。

⁵¹するとその時、イエスと一緒にいたペテロが、持っていた刀を抜き、そこにいた大祭司のしもべに切り掛り、その耳を切り落した。

⁵²そこで、イエスは彼に言われた。「刀を元に納めなさい。刀を執る者は、だれでも皆、刀によって滅ぼされてしまう。

⁵³それとも、わたしが天のお父様にお願いして、天使の大軍を、今すぐにわたしの配下に置くことができないとでも思うのか。

⁵⁴でも、そのようなことをすれば、こうならなければならないと書いてある聖書は、どうして成就されますか。」

⁵⁵その時、イエスは群衆に言われた。「あなたがたは、まるで強盗にでも向うように、刀や棒でわたしを捕まえに来たのですか。わたしは、毎日、神殿で座って教えていたのに、あなたがたは、わたしを捕まえませんでしたね。

⁵⁶しかし、すべてこうなったのは、預言者たちの書いた旧約聖書が成就するためです。」その時、弟子たちは皆、イエスを捨てて、逃げてしまった。

⁵⁷イエスを捕まえた人たちは、大祭司カヤパの官邸にイエスを引っ張って行った。そこには、律法学者や長老たちが集まっていた。それは、ユダヤ人議会であった。

⁵⁸ペテロは、遠くからイエスの後に付いて、大祭司の官邸の中庭まで行き、イエスがどうなるのか、その成り行きを見ようとして、中に入って、下役たちと一緒に座っていた。

⁵⁹さて、祭司長たちとそこで開かれたユダヤ人議会は、イエスを死刑にするという判決をすでに決めていた。その後、それに合う証人を求めていた。彼らのする証言は、言うまでもなく、偽証であった。

⁶⁰証人が沢山出て来たが、証拠は合なかった。最後に二人の者が出て来て、

⁶¹こう言った。「この男は、『神殿を壊したら、三日のうちにそれを建てることができる』と申しておりました。」

⁶²すると、大祭司が立ち上がって、イエスに言った。「その方は何も答えないのか。彼らはその方に不利な証言をしているが、どうなのか。」

⁶³しかし、イエスは黙ったままでおられた。そこで、大祭司はイエスに言った。「その方は、生きておられる神様に誓って言いなさい。その方は神の子キリストなのか。」

⁶⁴イエスは彼に言われた。「あなたは知っているはずです。よく言っておきますが、今から後、わたしが、ダビデやダニエルの預言通り、天のお父様の御座に着き、天の雲に乗って、裁き主として来るのを、あなたがたは見ることになります。」

⁶⁵その時、大祭司は自分の服を引き裂いて、言った。「神様に対する冒涜だ。どうしてこれ以上、証人の必要があろうか。さあ、ご一同も今、この冒涜の言葉を聞かれた。

⁶⁶どうお考えかな。」すると議員たちは答えて言った。「彼は死刑に当る。」

⁶⁷それから、ある者たちはイエスの御顔につばを吐き、こぶしでなぐり付け、またある者たちは、平手打ちにして、

⁶⁸言った。「キリストさん。お前さんを打った者がだれだか当ててみろ。」

⁶⁹ペテロは中庭に座っていた。すると、一人の女中が近付いて来て言った。「お前さんも、あのガリラヤ人イエスと一緒にいたねえ。」

⁷⁰ペテロは皆の前でそれを打ち消して言った。「あなたが何を言っているのか、私にゃ分らんよ。」

⁷¹そして、ペテロが入口の所まで出て行くと、ほかの女中が彼を見て、そこにいた者たちに言った。「この男はね、あのナザレ人イエスと一緒にいたよ。」

⁷²ペテロはまた誓って、それを打ち消した。「そんな人は知らないね。」

⁷³しばらくすると、その辺りに立っている人たちがペテロに近寄って来て、言った。「確かに、お前さんもあの仲間だ。お前さんの言葉のなまりで、はっきり分るじゃないか。」

⁷⁴その時、ペテロは、「そんな人なんか知るもんか。もしも知っていたら、呪われてもいい」と言って、誓い始めた。するとその時、すぐに鶏が鳴いた。

⁷⁵そこでペテロは、「鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言います」と言われたイエスの言葉を思い出した。そして、外に出て行って激しく泣いた。