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ルカによるイエス・キリストの福音 22 - 現代訳聖書, Modern Japanese Bible, 1983 bible

ルカによるイエス・キリストの福音 22

¹さて、過越の祭と、それに続くイースト菌無しのパンの祭が近付いていたので、

²祭司長、律法学者たちは、策略によってイエスを捕え、殺してしまおうと相談した。民衆を恐れていたので、うっかり手出しができなかったのである。

³時に、十二使徒の一人で、イスカリオテのユダという者の心の中に悪魔が入った。

⁴ユダは祭司長たちや神殿の守衛長たちの所へ行って、どのようにして、イエスを彼らに引き渡そうかと相談した。

⁵彼らは、喜んで、彼に金をやろうと約束した。

⁶ユダはそれを承知し、群衆のいない時にイエスを引き渡そうと、機会をねらっていた。

⁷イースト菌無しのパンの祭の第一日、すなわち、過越の子羊をほふる日に、

⁸イエスはペテロとヨハネを遣わして、こう言われた。「わたしたちの過越の食事が出来るように、準備をしなさい。」

⁹彼らはイエスに言った。「どこに準備したらよいでしょうか。」

¹⁰イエスは言われた。「エルサレムの町に行きなさい。そうすると、水がめを運んでいる男に出会いますから、その人が入る家まで付いて行きなさい。

¹¹そして、その家の主人に、こう言いなさい。『先生が、「弟子たちと一緒に過越の食事をする部屋はどこか」と言っておられます。』

¹²すると、その主人は、席を整えて準備された二階の広間を見せてくれます。そこで、わたしたちのために準備をしなさい。」

¹³彼らが出掛けて行って見ると、イエスが言われた通りであった。それで、彼らはそこで過越の食事の準備をした。

¹⁴時間になったので、イエスは食卓に着かれた。使徒たちも一緒に席に着いた。

¹⁵イエスは彼らに言われた。「わたしは苦しみの死を遂げる前に、あなたがたと一緒に、この過越の食事をすることを、どんなに強く望んでいたことか。

¹⁶よく言っておきますが、わたしは間もなく、イスラエルの民が繰り返し守ってきたこの過越の祭の中心である子羊として、ほふられます。そうすれば、やがて、わたしはあなたがたを御国に招きます。それまでは、あなたがたとこうして親しく食事をし、交わることは、もうありません。」

¹⁷そして、イエスは杯を取り、感謝をささげてから、彼らに言われた。「これを取って、互いに分けて飲みなさい。

¹⁸よく言っておきますが、あなたがたと過越の食事を一緒にするのは、これが最後です。」

¹⁹それから、パンを取り、感謝をささげてから、これを裂き、弟子たちに与えて言われた。「これは、わたしが十字架上で裂かれる体を表しています。それは、あなたがたのためです。わたしを覚えて、これからもこれを行いなさい。」

²⁰食事の後、杯を取り、同じように感謝をささげてから、弟子たちに与えて言われた。「これは、わたしが十字架に掛って、あなたがたの罪を赦すために流す血を表しています。これこそ、救いの契約にほかなりません。

²¹しかし、悲しむべきことに、わたしを裏切る者が、この中にいるのです。

²²わたしは父の御心通りに死にます。しかし、わたしを裏切る者は、災です。」

²³弟子たちは、自分たちのうちのだれが、そんなことをしているのだろうと、互いに論じ始めた。

²⁴それから自分たちの中でだれが一番偉いだろうかと言って、争いが彼らの間に起った。

²⁵すると、イエスは彼らに言われた。「あなたがたもよく知っている通り、異邦人の王たちは、人々の上に立って、権力を振っている者が偉い人と呼ばれています。

²⁶しかし、神の国に籍を持っているあなたがたが、そうであってはなりません。あなたがたのうちで一番偉い人は、召使のようになりなさい。あなたがたのうちで、上に立つ人は、仕える人のようになりなさい。

²⁷食卓に着く人と給仕する人と、どちらが偉いでしょうか。言うまでもなく、食卓に着く人でしょう。けれども、わたしは、あなたがたのうちにあって、給仕する者のようにしています。

²⁸あなたがたは、わたしの様々な試練の間、わたしと一緒に最後まで耐え忍んでくれた人たちです。

²⁹わたしの父がわたしに御国の支配をゆだねてくださったように、わたしもそれをあなたがたにゆだねます。

³⁰それで、あなたがたは、わたしの国でわたしの食卓に着くことができますし、王座に着いて、全イスラエルを裁くことを、わたしは約束しましょう。

³¹シモン、シモン。悪魔は、あなたを激しい試みに遭わせようとして、ついにその目的を達しました。

³²しかし、わたしはあなたの信仰が無くなってしまわないように、あなたのために祈っています。ですから、あなたはまたきっと立ち直ります。その時には、信仰の弱っている兄弟たちを力づけてあげなさい。」

³³シモンはイエスに言った。「主イエス様。私は、たとい牢獄でも、死でも、ご一緒に行く覚悟です。」

³⁴けれども、イエスは言われた。「ペテロ。そうではありません。今日、鶏が鳴く前に、あなたは三度、わたしを知らないと言います。」

³⁵それから、弟子たちに言われた。「わたしが財布も、旅行用の袋も、靴も持たせずに伝道の旅に出した時、何か足りない物がありましたか。」彼らは、「いいえ、何もありませんでした」と答えた。

³⁶そこで言われた。「間もなく、わたしはこの世を去って行きます。しかし、あなたがたはこの世に残ります。これからは、今までとは違った時代になります。ですから、あの伝道旅行に行った時のように、人々の好意に頼るのではなく、神様のみに信頼する信仰を持って自立していかなければなりません。

³⁷よく言っておきますが、『彼は罪人たちの中に数えられた』と書かれているイザヤの預言通りに、わたしは十字架上で死ななければなりません。」

³⁸弟子たちは言った。「主イエス様。私たちには、その覚悟はできております。」すると、イエスは、「それでよい」と言われた。

³⁹それから、イエスは出て、いつものようにオリーブ山に行かれ、弟子たちも従った。

⁴⁰いつもの場所に着いてから、イエスは彼らに、「誘惑に陥らないように祈っていなさい」と言われた。

⁴¹そして、ご自分は、弟子たちから石を投げて届くほどの所に離れ、ひざまずいて、こう祈られた。

⁴²「天のお父様。あなたに不可能なことは何もございません。どうぞ十字架に掛るというこの苦い杯を飲まないでもよいように、わたしから取りのけてください。けれども、わたしが願っていることよりも、あなたの御心が成りますように。」

⁴³その時、御使いが天から現れて、イエスを力づけた。

⁴⁴イエスは、苦しみもだえて、いよいよ切に祈られた。そのため、血の混じった汗がしずくのように地に落ちた。

⁴⁵祈り終って立ち上がり、弟子たちの所に来られると、彼らが悲しみの果に眠り込んでしまっているのをご覧になって、

⁴⁶言われた。「どうして眠っているのか。誘惑に陥らないように、起きて祈っていなさい。」

⁴⁷イエスがまだ話しておられるうちに、群衆がやって来た。十二使徒の一人のイスカリオテのユダが先頭に立って、イエスに口付けしようとして近寄って来た。

⁴⁸そこで、イエスは言われた。「ユダ。お前は、親愛の情を表す口付けで、わたしを裏切るのか。」

⁴⁹イエスの周りにいた弟子たちは、事の成り行きを見て、「主イエス様。刀で打ちましょうか」と言った。

⁵⁰そのうちの一人が、刀を抜き、大祭司のしもべに打って掛り、右の耳を切り落した。

⁵¹イエスはこれに対して、「それだけで、やめなさい」と言われた。そして、耳に触って治しておやりになった。

⁵²それから、自分に向って来る祭司長、神殿の守衛長、長老たちに言われた。「あなたがたは、まるで強盗にでも向うように、刀や棒でわたしを捕まえに来たのですか。

⁵³わたしは、毎日、神殿であなたがたと一緒にいて教えていたのに、あなたがたはわたしを捕まえませんでしたね。しかし、今は暗黒の力が働いている時、正にあなたがたの時です。」

⁵⁴彼らはイエスを捕え、大祭司の官邸に引き立てて行った。ペテロは遠くからイエスの後に付いて行った。

⁵⁵中庭の真中で火をたいて、皆一緒に座っていたので、ペテロもその中に混じって腰を下ろした。

⁵⁶すると、女中が、火のあかりを受けて座っているペテロを見付け、じっと見詰めて、こう言った。「この人も、あのイエスと一緒にいたねえ。」

⁵⁷すると、ペテロはそれを打ち消して言った。「いいや、私はあんな人なんか知らないね。」

⁵⁸しばらくして、ほかの人がペテロを見て、「お前さんも、あの男たちの仲間だろう」と言った。ペテロはまたそれを打ち消して、「いや、違うよ」と言った。

⁵⁹それから一時間ほどたつと、またほかの人が、こう言った。「確かに、こいつもあの男と一緒にいたよ。こいつもガリラヤ出だもんな。」

⁶⁰すると、ペテロは、「あんたが何を言っているのか、私にゃ分らんよ」と言った。彼がまだ言い終らないうちに、鶏が鳴いた。

⁶¹主は振り返って、ペテロを見詰められた。ペテロは、「今日、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言います」と言われた主の御言葉を思い出した。

⁶²そして外へ出て、激しく泣いた。

⁶³イエスを監視していた人たちは、イエスをあざけり、むちで打ちたたいた。

⁶⁴それから目隠しをして、「キリストさん。お前さんを打った者がだれだか、当ててみろ」と言った。

⁶⁵そのほか数えきれないほどの悪口を言って、イエスを弄んだ。

⁶⁶夜が明けると、民の長老、祭司長、律法学者たちが集まり、イエスを議会に引っ張って行き、

⁶⁷こう言った。「その方はキリストなのか。」イエスは言われた。「わたしが本当のことを言っても、あなたがたは信じないでしょう。

⁶⁸わたしが尋ねても、あなたがたは答えないでしょう。あなたがたには、そうした後ろめたさがあるのです。

⁶⁹しかし、わたしははっきり言います。わたしは、ダニエルの預言通り、天のお父様の御座に着き、神様の大能を振うことになります。」

⁷⁰彼らは言った。「それでは、神の子だと言うのか。」イエスは言われた。「その通り、わたしは神の子です。それは、あなたがたも言っているではありませんか。」

⁷¹すると、彼らは言った。「これ以上、証人の必要があろうか。私たちは、直接彼の口から神様に対する冒涜の言葉を聞いたのだから。」