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ルカによるイエス・キリストの福音 9 - 現代訳聖書, Modern Japanese Bible, 1983 bible

ルカによるイエス・キリストの福音 9

¹イエスは十二使徒を呼び寄せて、彼らにすべての悪霊を追い出し、病気を治す力と権能をお与えになった。

²また、神の国を宣べ伝え、病気を治すために、彼らを遣わされた。

³イエスは彼らにこう言われた。「旅のためには、何も持って行ってはいけません。杖も、旅行用の袋も、パンも、お金も、また余分の下着も持って行ってはいけません。

⁴どこかの家に入ったら、そこに留まっていなさい。そして、そこから次の旅に出掛けるようにしなさい。

⁵だれもあなたがたを受け入れないなら、その町を出て行く時、あなたがたの足のちりを払い落しなさい。それは、彼らが異邦人と同じだということを示すためです。」

⁶こうして、十二使徒は出て行き、村々を巡り歩き、至る所で福音を宣べ伝え、病気を治した。

⁷さて、国主ヘロデは、このすべての出来事を耳にして、ひどく当惑していた。それは、ある人たちが、イエスのことを、「バプテスマのヨハネが死人の中から生き返ったのだ」と言っていたり、

⁸また、ほかの人たちは、「エリヤが現れたのだ」と言い、さらにほかの人々は、「昔の預言者と同じような預言者だ」と言っていたからである。

⁹ヘロデは言った。「バプテスマのヨハネなら、余が首を切ったのだ。一体、この人はだれなのだろう。」こうして、ヘロデは一度イエスに会ってみようと思っていた。

¹⁰使徒たちは帰って来て、自分たちのしたことを、イエスに報告した。すると、イエスは彼らを連れて、ベツサイダという町へひそかに退かれた。

¹¹ところが、群衆はこれを知り、付いて来たので、イエスは喜んで彼らを迎え、神の国のことを語り、また治療を必要としている人々を治しておやりになった。

¹²そのうち、日も暮れ始めたので、十二使徒はみもとに来て言った。「ここはへんぴな所ですから、近くの村や部落に行って、宿を取らせ、食べ物を手に入れることができるように、群衆を解散なさったらいかがでしょうか。」

¹³しかし、イエスは彼らに言われた。「あなたがたが何か食物を上げたらよいでしょう。」彼らは言った。「ここには、五つのパンと二匹の魚しかありません。私たちが出掛けて行って、あの人たち全部の食物を買えとおっしゃるのですか。」

¹⁴それは、女と子供を除いて、男の数だけで、約五千人もいたからである。しかし、イエスは弟子たちに言われた。「人々を五十人ぐらいずつ組にして座らせなさい。」

¹⁵弟子たちは、そのようにして人々を座らせた。

¹⁶すると、イエスは、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りをして裂き、人々に配るようにと、弟子たちに与えられた。

¹⁷皆の者は、食べて満腹した。余ったパンくずを拾うと、十二のかごが一杯になった。

¹⁸イエスが一人で祈っておられた時、弟子たちも近くにいたので、彼らに尋ねて言われた。「この世の人々は、わたしをだれだと言っていますか。」

¹⁹彼らは答えて言った。「ある人々は、バプテスマのヨハネだと言っておりますし、また、ほかの人々は、エリヤだと言っております。要するに、預言者の一人だと言っております。」

²⁰すると、イエスは弟子たちに言われた。「それでは、あなたがたは、わたしをだれだと言うのですか。」ペテロが答えて言った。「あなたは、神のキリスト様です。」

²¹そこで、イエスは、このことをほかの人々には言わないようにと言って、弟子たちを戒められた。

²²それから、こう言われた。「わたしは必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちに捨てられ、殺されて、三日目に復活します。」

²³それから、イエスは弟子たち全員に言われた。「だれでも、わたしの弟子になりたいなら、古い自我を捨て、恥と苦しみと死を意味する十字架を毎日背負い、わたしに従って来なさい。

²⁴自己保身的な人は、かえって、大事な命を失ってしまう結果になり、わたしのために、自分の命を犠牲にする人は、それを本当に自分のものとすることができます。

²⁵たとい人が全世界のものを手に入れることができたとしても、本当の命を失ってしまったら、一体何になるでしょう。

²⁶だれでも、わたしとわたしの言葉を恥じる者に対しては、わたしもまた、わたしの父の栄光のうちに、御使いたちと一緒に来る再臨の時に、裁かずにはおきません。

²⁷よく言っておきますが、確かに、イスラエルの人々が裁かれるのは、この世の終りの時にではなく、もう間もなくのことです。その時、わたしが来て、イスラエルの人々を裁きます。またその時、教会が生れ、そこに神の国の力を見ることができるでしょう。」

²⁸これらのことを話されてから八日ほどたって、イエスはペテロとヨハネとヤコブを連れて、祈るために山に登られた。

²⁹祈っておられると、御顔の様子が変り、その服は白く光り輝いた。

³⁰するとその時、二人の人がイエスと話し合っていた。それは、旧約の律法を代表するモーセと、預言者を代表するエリヤであって、

³¹栄光のうちに現れて、イエスがエルサレムで成し遂げようとしておられる身代りの死について話していた。イエスは、その昔モーセが神の民をエジプトから救い出し、約束の地に導き入れたように、私たちをこの罪の世から救い出し、天に導き入れてくださるために、十字架上で身代りの死を遂げようとしておられたのである。

³²ペテロとその仲間の者たちは、眠くて仕方がなかったが、はっきり目が覚めると、イエスの栄光と、イエスと一緒に立っている二人の人を見た。

³³この二人がイエスを離れて行こうとした時、ペテロはイエスに言った。「先生。私たちがここにいることは、すばらしいことです。私たちはここに三つの小屋を造りましょう。あなたのために一つ、モーセのために一つ、エリヤのために一つです。」実のところ、ペテロは自分が何を言っているのか自分でも分らなかったのである。

³⁴彼がこう言っているうちに、雲が起って、彼らを包んだ。そのため、弟子たちは恐ろしくなった。

³⁵すると、雲の中から声があった。「これは、わたしの愛する子である。わたしの選んだ者である。彼の言うことを聞きなさい。」

³⁶この声がした時、そこにはイエスだけがおられた。彼らは沈黙を守り、その当時は、自分たちの見たことについては、だれにも話さなかった。

³⁷翌日、一行が山から下りて来ると、大勢の群衆がイエスを迎えた。

³⁸するとその時、群衆の中から一人の人が大声を上げて言った。「先生。お願いです。どうか、息子を見てやってください。この子は私の一人息子ですが、

³⁹霊が取り付きますと、急に叫び出すのです。そして、引き付けさせて、泡を吹かせ、ひどい目に遭わせて、なかなか出て行きません。

⁴⁰イエス様がお留守なので、お弟子さんにお願いして、霊を追い出していただこうと思ったのですが、お弟子さんには出来ませんでした。」

⁴¹イエスは答えて言われた。「ああ、不信仰で曲った時代だ。わたしはいつまで、あなたがたと一緒にいなければならないのでしょう。いつまで、あなたがたのために、辛抱しなければならないのでしょう。その子をわたしの所に連れて来なさい。」

⁴²その子を連れて来る間にも、悪霊は彼を引き倒して、激しく引き付けさせた。それで、イエスは悪霊をしかり、その子を元通りにして、父親に渡された。

⁴³人々は皆、神の偉大な力に驚いた。

⁴⁴皆の者が、イエスのなさった数々のことに驚いていると、イエスは弟子たちにこう言われた。「わたしは、今に人々の手に渡され、殺されるのです。このことを、よく覚えておきなさい。」

⁴⁵しかし、弟子たちは、この御言葉がよく理解できなかった。このころの弟子たちには、この御言葉の深い意味は隠されていたのである。また、弟子たちは、この御言葉について、イエスに尋ねるのを恐れた。

⁴⁶弟子たちの間に、自分たちの中で、だれが一番偉いかということで、議論が始まった。

⁴⁷イエスは、彼らの心の中の思いを見抜かれて、一人の幼子の手を取り、ご自分のそばに立たせ、

⁴⁸弟子たちに言われた。「だれでも、このようなつまらない幼子を、わたしのために受け入れる人は、わたしを受け入れるのです。また、だれでも、わたしを受け入れる人は、わたしをこの世に遣わされた天のお父様を受け入れるのです。この幼子のように、自分をつまらない者と考える人が、神の国では一番偉い人です。」この当時、幼子は、今日のように、純真無垢を表すとは考えられておらず、つまらない者と考えられていたのである。

⁴⁹すると、ヨハネが言った。「先生。先生のお名前を使って、悪霊を追い出しているのを見ましたが、私たちの仲間ではないので、やめさせました。」

⁵⁰しかし、イエスは言われた。「やめさせることはありません。わたしの名前を使って、力強い奇蹟を行っている人で、わたしに反対する人はいないでしょう。わたしに反対しない人は、わたしの味方です。」

⁵¹さて、イエスが地上の生活を終えて、天に上げられる日が近付いたので、イエスは、エルサレムへ行こうとして、御顔をその方へ向けられ、

⁵²ご自分に先立って使いを遣わされた。彼らは行って、サマリヤ人の町に入り、イエスのために準備をしようとしたところ、

⁵³そこの人々は、イエスがエルサレムへ向って進んで行かれるというので、歓迎しなかった。

⁵⁴弟子のヤコブとヨハネは、それを見て言った。「主イエス様。昔エリヤがしたように、私たちも天から火を呼び下して、彼らを焼き滅ぼしてしまいましょうか。」

⁵⁵すると、イエスは振り向いて、彼らを戒められた。

⁵⁶そして、一行は、別の村へ行った。

⁵⁷彼らが道を進んで行くと、ある人がイエスに言った。「私は、あなたがおいでになる所なら、どこへでもご一緒に参ります。」

⁵⁸すると、イエスは彼に言われた。「さすらいの習性のある狐にさえ、ねぐらはある。空の鳥にも巣がある。しかし、わたしには仮寝の場所も無い。わたしに従って来る者も、同じことを覚悟しなければなりません。」

⁵⁹イエスは別の人に、こう言われた。「わたしの弟子になりなさい。」すると、その人は言った。「私の父の葬式を済ませてから、ご一緒に参ってもよろしいでしょうか。」

⁶⁰すると、イエスはこう言われた。「葬式も大事だろうが、もっと大事なことがある。あなたは出て行って、神の国を語り広めることです。」

⁶¹また、別の人はこう言った。「主イエス様。弟子にならせていただきます。ただその前に、家の者に別れの挨拶をしたいのですが。」

⁶²すると、イエスはこう言われた。「だれでも、わたしに従って行く決意をしてから、この世のものに心が移って行くなら、神の国の働き人として、わたしの弟子にふさわしくありません。」