Read 現代訳聖書, Modern Japanese Bible, 1983 サムエル記1 20 Bible Online

サムエル記1 20 - 現代訳聖書, Modern Japanese Bible, 1983 bible

サムエル記1 20

¹ラマのナヨテも危険になり、ダビデはそこから逃げ出し、ヨナタンの所に来て、こう言った。「ヨナタン。どうしてあなたのお父上は、私の命をねらっているのでしょう。私が何かお父上に対して悪いことでもしたのでしょうか。」

²ヨナタンは優しく彼に話した。「いや、決してそんなことはない。父はどんな事でも皆、私に話してくれる。父が君を殺すことはありえない。」

³ダビデはなおも言った。「お父上は、あなたが私に好意を寄せていることをご存じです。ですから、あなたを悲しませないために、このことを言わないのではないでしょうか。主とあなたの前で私の気持を言えば、私は今、死と背中合せに生きている気がしてなりません。」

⁴ヨナタンは心を開いて、ダビデを慰めた。「君のためにしてあげられることがあれば、何でもする。」

⁵ダビデはヨナタンに言った。「明日から、いよいよ新月の祝が始まります。私はこれまでずっと王様とご一緒に、そのお祝の席にはべって来ました。でも、今は三日間野原に隠れていて、それに出ないつもりです。

⁶もしその時、お父上が私のいないことを知って、お尋ねになりましたら、こうおっしゃってください。『ダビデは急用があるので自分の町ベツレヘムへ帰りたいと、しきりに頼みました。年に一度、一族が集まって、いけにえをささげるのだそうです。』

⁷もし、お父上がそれをお咎めなさらなければ、私に害を加えるお気持は無いと考えてよろしいでしょう。しかし、もしご立腹になれば、私を殺すおつもりだと思ってもよいのではないでしょうか。

⁸主の前で義兄弟のちぎりを結んでくださったことに甘えて、このことをお願いしたいと思います。しかし、もし私に何か間違っていることがあって、こういうことになるのでしたら、どうぞあなたの手で私を殺してしまってください。お父上の所まで連れて行く必要はありません。」

⁹ヨナタンはダビデを見詰めて、こう言った。「そんなことを私はしない。父が君を殺そうとしていることが分ったら、真先に君に知らせるから。」

¹⁰ダビデはなおも不安げであった。「もしお父上が、ご立腹された時には、どんな方法で私に知らせてくださいますか。」

¹¹ヨナタンは、「さあ、野原に出よう」と言って、二人で外に出た。

¹²ヨナタンはイスラエルの主である神に誓って、ダビデに語った。「明日か、あさっての今ごろ、私は父の気持を探ってみる。君に対してどんな気持を持っていたとしても、

¹³必ず君に知らせてあげる。もしそうしなかったら、主が私に罰を加えてくださっても構わない。主が父と共におられたように、君と共にいてくださるようにと願っている。

¹⁴そして、君にお願いがある。生涯変らず、主のいつくしみを私に示してもらいたい。たとい私が死んでも、

¹⁵主が君の敵をこの地上から一掃された後も、君の好意を私の一族に示してほしい。」

¹⁶こうして、ヨナタンはダビデと神の前で約束した。ダビデも、この約束を破る場合には、後々までも罰を受けてよいと言って誓った。

¹⁷ヨナタンは、もう一度誓った。彼はダビデを自分自身のように愛していた。

¹⁸ヨナタンはダビデに言った。「明日から新月の祝が始まるが、君の席があいているのに気付いて、

¹⁹遅くともあさってには、父も厳しく問いただすに違いない。君は前に隠れたことがある場所で、あのエゼルの石のそばにいてくれ。

²⁰私は的を射るような格好をして、三本の矢をその辺りに放つことにする。

²¹私が少年をやって矢を拾わせる。その時、もし『おい、矢はもっと手前にあるぞ』という声が聞えたら、出て来てくれ。主に誓って言うが、君は何事もなく安全だ。

²²しかし、もし『おい、矢はもっと向うにあるぞ』という声が聞えたら、逃げてくれ。それは立ち去れという合図だ。

²³この約束は、主の前で私が立てた確かな約束だと思ってくれ。」

²⁴こうして、ダビデは野原へ行って、身を隠した。新月の祝が始まり、王は食事をする部屋に入って来て、

²⁵いつものように壁寄りの自分の席に着いた。ヨナタンはその向い側、アブネルはサウルの隣の席に着いたが、ダビデの席はあいていた。

²⁶その日、サウルはそのことについては何も言わなかった。「何か思わぬことで身が汚れて、この祝の席に出ることができなくなったのだろう」と思っていた。

²⁷ところが、二日目にもダビデの席があいているのを見て、サウルは息子のヨナタンに尋ねた。「どうしてダビデは、昨日も、今日も会食に来ないのか。」

²⁸ヨナタンは打ち合せておいた通りに答えた。「ダビデは急用でベツレヘムへ行かせてほしいと、しきりに私に頼むのです。

²⁹『年に一度、一族が集まって、いけにえをささげるのです。兄たちが私に来るようにと申します。お願いです。どうか兄たちの所に行かせてください』と言いました。それで、彼はここへ来ることができません。」

³⁰サウルは烈火のごとく怒った。「ばか者！お前があのダビデに特別目を掛けていることぐらい、ちゃんと分っているのだ。あんなやつに目を掛けるなど、もってのほかだ。お前は自分の顔に泥を塗っているのだぞ。

³¹ダビデが生きている限り、お前の王位も危なくなる。今すぐ、人をやって、あいつをここに連れて来い。殺してしまうのだ。」

³²ヨナタンは悲しげに答えた。「どうしてダビデは殺されなければならないのですか。彼が何をしたと言うのですか。」

³³サウルはとっさに槍をヨナタン目掛けて、投げ付けた。それで、ヨナタンは、父がダビデを殺そうと決めていることを悟った。

³⁴ヨナタンは震えが止らず、食卓から立ち上がり、この日の食事は取らなかった。父がダビデを憎んでいることを知って、少なからず心を痛めた。

³⁵朝になると、ヨナタンは少年を連れて、ダビデと打ち合せたように野原に出た。

³⁶ヨナタンの矢を拾うため、少年が走って行く間に、ヨナタンはそれよりも先に矢を放った。

³⁷その所まで行くと、ヨナタンは大声で、「矢は、もっと向うだぞ」と叫んだ。

³⁸「早く、早く。止らずに走って行け。」少年は矢を拾って、ヨナタンの所に持って来た。

³⁹少年はただ言われるままをしていたが、ヨナタンとダビデには、それが何を意味しているのか、分っていた。

⁴⁰ヨナタンは、自分の弓矢を少年に渡し、「これを持って帰るように」と命じた。

⁴¹少年が行ってしまうと、ダビデは姿を現し、ヨナタンの友情に感謝した。二人は抱き合って泣いた。ダビデは心から泣いていた。

⁴²ヨナタンはダビデに言い出した。「さあ、元気を出してくれ。われわれの友情はいつまでも変ることがない。主の前でそう約束したではないか。」ダビデは去って行き、ヨナタンは町へ帰って行った。